赤はだか
まだ幼かったツバス（関東名ワカシ）がぐんぐん大きくなってハマチ（同・イナダ）になった。ハマチはブリの若い衆。強烈なあたりだ。置き竿は厳禁。アッ！という間もあるものか。ガシャ！という音と同時に竿はひったくられてもう海中を走っている。
妙なものでしっかり竿尻を掴んでいたり、竿に尻手綱を結わえたりするとあたりがない。竿から手を放し、綱も付けずに油断するとあたりがある。
一計を案じ、素知らぬ顔で竿を足で押さえる作戦に出た。いざ勝負勝負。今年はまだ一本も竿を取られない。
先日、こうして虎視眈々ハマチの来襲を待っていると、百メートルほど離れた船から「おォ〜い、そっちへ行ったぞォ〜」と声があった。
見ると竿が大きく曲がっている。針がかりした魚がこちらへ向かっているらしかった。大物のようだ。騒ぐ同船者たちを尻目に、大魚はそのまま糸をぶち切って泳ぎ去った。釣り糸が切れて竿が空に跳ね上がったのが見えた。
ハマチにしては大仰すぎる引きである。周囲の船から三々五々意見が寄せられた。シイラだと言う者、メジロ（ワラサ）やないかと言う者、エイ（尾に毒針。ヒレの干物は火であぶる）だろうと言う者。
エイに賛同者が多かった。あるいはサメ（出雲地方ではワニ。因幡の白兎の悪役）だったかも知れない。